学科長あいさつ

心理支援科学科長 玉 井  康 之

 我が国における心理職の資格の種類はいくつかありますが、その主たるものに、公認心理師と臨床心理士があります。以前は弘前大学教育学部にも心理修士課程(臨床心理士の養成コース)がありましたが、同学部は組織改編により教員養成に特化したため、平成30(2018)年度以降、青森県内で心理職を養成する大学・大学院教育課程が途絶えていました。

 心理職を国家資格化する動きは以前よりありましたが、紆余曲折を経て、平成27(2015)年に公認心理師法が制定され、平成30(2018)年4月から大学等での公認心理師の養成が始まりました。そして青森県においても、公認心理師の養成を目的として、令和2(2020)年4月、弘前大学医学部心理支援科学科が開設されました。
 その特徴としては、医学部の中に設置された点が挙げられます。令和4(2022)年6月20日時点で全国で2校のみの珍しい存在です。弘前大学医学部には医学科、保健学科、心理支援科学科の3つの学科があり、保健学科には看護学、放射線技術科学、検査技術科学、理学療法学、作業療法学の5専攻があります。これら保健・医療の各分野の教員・学生が身近にいて、学生のうちから多職種との連携の感覚が身につきやすい環境にあります。

 現在、ストレス社会ということが言われて久しいですが、時代時代によって、家庭内暴力や摂食障害、不登校・いじめ、ひきこもり、新型(非定型)うつ病、ブラック企業、過労死、いわゆる発達障害、犯罪被害者家族支援、被災地支援など、注目される心理関連の話題は多岐にわたります。
 こうした問題に関して心理職の必要性・存在価値が以前にもまして注目されるようになりました。
医療・保健分野においては、小児科領域、移植医療、遺伝カウンセリング、循環器疾患、緩和ケアチームなど多くの活躍の場があります。例えば緩和ケアチームにおいて心理職は、がん患者さんとそのご家族の気持ちに寄り添う、非常に大切な役割があります。現在では、がんになったら退職して自宅で過ごすのではなく、個々人の意志や体力などに応じて、がんを抱えながらも社会参加していく体制を政府が後押ししていることもあり、期待されるところ大です。
 教育分野において、スクールカウンセラーはすっかり学校に定着していますし、ひきこもりの問題は、当事者の苦悩のみならず、労働人口の減少にも繋がっており、教育分野と産業・労働分野にも関連しています。
 産業・労働保健の分野において、わが国では、いわゆるメンタルへルスによる休職や退職による経済的損失は最大の要因となっており、職場におけるメンタルヘルスの向上に政府も本腰を入れています。
 司法・犯罪分野では、家庭裁判所、少年鑑別所、少年院などの場があり、犯罪被害者家族支援も重視されています。
 福祉分野においては、児童福祉(児童相談所等)、高齢者福祉(老人保健福祉施設等)、障害者・児福祉(障害者・児支援事業所等)の3大福祉があり、人生の初めから終わりまで関与しています。
 このように、現在、様々な分野で心理職の活躍が求められています。心理職は、個人に対しては、人のこころや気持ちを感知し、慮り、寄り添い、必要に応じて手を差し伸べ、自立を促すこと、心理検査を主としたクライエント(来談者)の心理査定(アセスメント)、クライエントを巡る各専門職や各機関との連携や協働のマネージメントを行い、社会に対してはメンタルへルス向上のための啓蒙活動を行うなど、広い範囲で活動を行っています。

 公認心理師になるには、大学院修士課程を修了した後、あるいは国が定めた科目を履修する4年制大学卒業後、国が法で定めた施設で定められた期間以上の実務経験を積んだ後に公認心理師試験の受験資格を得、合格することが必要ですが、現在、当学科は令和6年度の大学院開設に向けて設置準備中です。青森県の心理職の地位向上、技能向上、心理職同士のつながりの一助になるべく、使命を果たしていきたいと考えています。
 本当に(実行するのはなかなか困難なことなのですが少しでも多く)クライエントの気持ちを感知し、慮り、寄り添い、表面的な優しさではなく、クライエント自身が、思い通りになるわけではない現実の人生を何とか過ごしていけることができるようになることを手伝える実力を持ち、リサーチマインドを有した人材を育成・輩出することを目標としています。
 人の「こころ」に興味があり、意欲のある方のご入学をお待ちしています。

弘前大学医学部心理支援科学科